はじめに
インテリア空間を構成する要素の中で床や壁と並んで大きな割合を占めるのが「天井」です。しかしながら、店舗デザインを考える際に軽視されたり見落とされたりされやすいのも「天井」です。
天井は、家具や装飾品などによって隠れる部分がほとんど無い為、壁や床に比べて仕上げそのものが広い範囲で見えてきます。その為、店舗空間の中でもデザインや心理的に与える影響が大きく、空間デザインを考える中で大切な要素となります。
軽視されがちな天井ですが、天井が持つ効果や影響を知り、ワンランク上の店舗デザインを目指してみませんか?
店舗デザインで使われる天井のタイプ
店舗における天井は様々なデザインが施されています。見た目のインパクトを考えた物、空間の広がりを意識した物、機能的な効果を期待して造られた物など幅広い天井が採用されています。
そして、天井には照明器具や空調、防災器具など多くの器具を取り付ける必要があり、それらを上手く隠したり、あえて目立たせてデザインのアクセントにするなど様々な要素を考慮する必要があります。
特に広い空間になればなるほど、天井が店舗空間に与える効果や影響は大きくなっていきます。それでは一般的にどのような天井が店舗やオフィスで採用されているのかを見ていきましょう。
スケルトン天井
スケルトン天井とは「天井がスケルトン状態」のまま残っている事を表す言葉です。「スケルトン」とは建物を支えている構造物が剥き出しになっている状態の事を指します。
一般的に店舗デザインをする際は「鉄筋コンクリート造」や「鉄骨造」の建物を使う事が多く、「スケルトン天井」というと、打ちっぱなしのコンクリートや鉄骨が露わになっている状態を指す事が多くなっています。
空調や電気などの配管が露わになる事で無骨な印象になり天井を張っている空間では表現できない独特な雰囲気を演出する事ができます。
サードウェーブコーヒー系の店舗などに多く見られる「工場を改装したようなカフェ」などの店舗で多く採用され始め、あまり手を加えずして「オシャレ」と思われるような天井デザインとなってきました。
近年では、店舗だけでなくオフィスでも多く採用されており、「オフィスっぽくないオフィス」の雰囲気が出て、おしゃれなオフィス空間を演出する事が出来ます。
在来天井
在来天井とは、天井内に下地となる骨組みをLGS(軽量鉄骨)や木材で組み、その骨組みに対して石膏ボードやパネルを貼っていく方法です。いわゆる「天井がある」店舗(特にショッピングモールなどの商業施設にある店舗)で多く採用されている方法となります。
配管や配線などが天井裏に隠せる為、室内から見える部分の天井面がスッキリとし、清潔感があり洗練された店舗空間の演出に役立ちます。その為、高級感や清潔感・洗練さが求められる「高級ブティック」や「レストラン・ホテル」などでは、ほとんどこの工法が取り入れられているのではないでしょうか。
しかし、照明器具や設備の配置を上手く計画しないと煩雑な印象となってしまい、逆に空間が汚く見えてしまう事になるので注意が必要です。
システム天井
主にオフィスで多く取り入れられている天井で、デザイン性よりも「コスト」や「機能性」、「メンテナンス性」を重視した天井です。
これらはオフィスで必要とされる要素となる為、一般的なオフィスビルなど多くのオフィスでシステム天井が取り入れられています。その為、雑居ビルやオフィスビルなどの中に出店をする際には、この天井を使う事になるかもしれません。
システム天井の作り方は、写真のように天井面にフレームをグリッド状や長方形に組んでいき、パネルをはめ込んでいきます。各部材や仕上げ材は規格化されており、部材のロスを防いだり、工程を簡略する事で施工に関わるコストの削減に繋がっていきます。
スケルトン天井のメリット/デメリット
店舗でもオフィスでも人気の「スケルトン天井」。そのメリットやデメリットについて見ていきましょう。
メリット
天井を張らない事により、物理的に天井が高くなります。古いビルなどでは、天井が低く設定されており、圧迫感を感じるような造りになっている事もあります。
そのような空間でも、スケルトン天井にする事により開放感のある空間に生まれ変わります。その開放感は飲食店などゆっくりしたい場所などでも効果を発揮します。
デメリット
オフィスビルや雑居ビル、居抜きの物件などで多いのですが、すでに天井が貼られているような物件が多く存在します。そのような物件をスケルトン天井に生まれ変わらせたい場合、既存の天井を解体する費用が発生します。
更に、契約によっては「原状回復義務」も発生する為、退去する際はまた新たに天井を張らなくてはならない事もあります。
また、天井で使われるクロスやパネルには断熱効果などもあり、それらが無くなる事により室内の気温を保つ機能が無くなり、空調効率が悪くなる事もあります。
在来天井のメリット/デメリット
一般的に広く使われている天井の工法。どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
メリット
下地となる素材が軽量鉄骨であったり木材の為、比較的容易に入手する事が出来ます。そしてその下地に貼るパネルやボードもたくさんの種類が市場に出回っている為、材料の単価は低くなります。
仕上げについても、クロスや塗装、木板貼など数多くの選択肢があり、デザインの幅が広がります。その為、デザインを重視するような物販店や飲食店で多く採用されています。
また、天井面がフラットになりスッキリ見える事で、清潔感を与える事も出来ます。
デメリット
下地を組んだり、パネルやボードを1枚ずつビスなどで留めていく為、工事の手間は多くなります。照明器具や空調機などを取り付ける時は、パネルやボードをくり抜いて設置する為、他の場所に簡単に移設する事が簡単には出来なくなってしまいます。
飲食店などで壁の位置を変えたり、個室を新たに造る場合などに天井設備を適切な位置に移設をする必要が出てきます。そういった時に一度部分的に天井を解体し、また新たに天井を造るというような比較的大掛かりな工事が必要になってしまいます。
また、パネルやボードはビスで留められている為、簡単に外す事が出来ません。その為、天井内の機器に不具合が出たときに簡単に天井内を覗けるように点検口を設置する必要があります。
システム天井のメリット/デメリット
オフィスビルや雑居ビルで良くみられる「システム天井」。なぜそれらの場所で重宝されているのでしょうか?
メリット
システム天井の下地は簡単に組む事ができ、形状も「グリッド状」や「ライン状」などいくつかのパターンから選択する事が出来ます。天井面となるパネルは、その下地にはめ込まれているだけの為、破損をした場合にもそのパネルだけを交換するだけで修繕が完了します。
また、レイアウトを変更する時にも天井設備の位置を変えやすい為、様々な会社が入居・退去を繰り返すようなオフィスビルや雑居ビルなどで多く採用されています。
ひと昔前までは、パネルをはめ込んでいるだけの為、防音効果や吸音効果、断熱効果は低いと言われてきました。しかし現在では技術の発展により、現在では吸音効果の高いパネルや、防火性・断熱性に優れた素材など、様々な効果を持った素材が登場してきています。
デメリット
システムとして簡単に組む事が出来る事が、デメリットにもなってしまいます。パネルの性能は上がってきていますが、在来工法に比べると防音効果や断熱効果は低くなってしまいます。
また、パネルをはめ込んでいるだけの為、地震などの揺れに弱く、落下してしまう恐れがあります。特に重量のある設備を取り付けているパネルは落下リスクが高くなってしまいます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
普段何気なく見ている天井にもいくつかの種類があり、それぞれにメリットやデメリットがあります。天井に求めているデザインや機能などに合わせて、どのような天井を作り上げていくか考える事が店舗デザインでは大切になってきます。
あなたの目指す空間にとって、デザイン的にも機能的にも一番最適な「天井」はどんな物か考えてみてはいかがでしょうか?
今回のコラムテーマ
~見落としがちな「天井」について考える~
読むデザイン
店舗デザインには様々な仕掛けや工夫が散りばめられています。内装・家具・インテリア・建築など総合的に考えながら、目に見えるものはもちろん、空気感、匂い、温度などの目に見えない「シーンを語る」ような雰囲気づくりが大切です。STORE PALETTEでは店舗デザインをはじめとした様々な空間デザインについて独自の目線で執筆しています。