はじめに
数多くある店舗の中でお客様に認知してもらい、店内に入ってもらう為には看板などの「サイン」が必要不可欠です。店頭の看板やロゴなどで「どんなお店か」をお客様に伝え、店内のPOPやメニューなどで「どんな商品があるのか」を視覚的に訴求する事ができます。効果的にブランドイメージや商品をお客様に伝える為にはサインの「デザイン」や「配置の計画」が大切です。
「サインデザイン」には様々な要素があり、使用するフォントやグラフィックなどで印象が大きく変わります。また、ただサインを並べるだけではなく「どこに」「どのような」サインを配置するかでも与える印象は変わってきます。ブランドや商品イメージを効果的に訴求する為にはどのような点に気を付ける必要があるのでしょうか。
「サイン」とは
店舗デザインにおける「サイン」の中でも一番重要になってくるのは「ファサードサイン」です。店頭部分に掲示する店名など「店舗の顔」となるサインで、有名なブランドであればそれだけで何を売っているお店なのかが分かります 。物販店の場合、店内に「MEN’s、LADIE’s」などのカテゴリーを掲示する事で、お客様が効率的に目的の商品を手にする手助けにもなります。
飲食店の場合、店外に向けて掲示するメニューやおすすめ料理の写真などもサインの一つで、そこに店舗のコンセプトや想いを込める事で、初めてその店舗を訪れるお客様の入店意欲にも影響を与えます。その他にも、店内に掲げられている商品の説明書きやイベント・セールの告知情報などもサインの一つであり、次回の来店の動機付けにもなります。このように「サイン」にはたくさんの要素があり、「どこ」に「どのような」サインを出すかが重要です。
効果的なサイン計画
「どこ」に「どのような」サインを出すかについて考える事を「サイン計画」と呼びます。その場所で掲示するサインの役割をしっかり決める事が大切で、「じっくり読んでもらう物」と「一目見るだけで明確な情報が伝わる物」のどちらを採用するかを考えます。メニューや商品の説明などを記載したサインは「読んでもらう物」で立ち止まって見てもらうサインです。反対にトイレ表示などの「一目で理解できる物」は人の動きを止める事なく効率的にお客様を誘導する為に使われ、視認性の高さが重要になります 。
また、「誰」に向けてのサインなのかも重要な要素の一つであり、外国人観光客に向けて複数の言語を併記する事でインバウンドの需要も取り込む事が出来るでしょう。言語だけではなく「ピクトグラム」と呼ばれる絵図を用いる事で、日本語が分からない人達にも視覚的にメッセージを届ける事が可能です。
サインを構成する要素とその特徴
サイン計画が固まった段階で、各サインをどのようにデザインするかを考えていきます。色やフォント、ピクトグラムなどにより与える印象が変わってくる為、どのようなデザインにするかはとても重要です。
色
サインデザインの中でも重要な要素の一つが「色」です。色彩心理学と呼ばれる学問がある程、「色」が人に与える心理的影響は大きいと言われています。例えば、赤などの暖色系は食欲を増進させたり、関心を集めやすい色と言われています。飲食店ではメニューなどに上手く取り入れると効果的でしょう。物販店でも暖色系はさまざまな場面で使用されており、赤色は「購買意欲を高める」と言われています(参照1)。注意を引きやすい色でもある為「SALE」などの注目して欲しいサインなどに取り入れると効果が高まるでしょう。反対に、青などの寒色系は「信頼感」を与えやすい色の為、ロゴサインなどに取り入れるとブランドの印象アップに繋がると言われています(参照1)。
また、色味だけでなく1つのサインに対して「何色(なんしょく)使うか」も大切な要素となります。モノトーンや単色にする事で「高級感」や「落ち着き感」を与えます。反対に3色以上取り入れる事で「カジュアルさ」や「賑やか」な印象を与える事ができます。
サイズ
サインの役割として「目立つ」ことは大切ですが、ただ大きくして目立たせれば良いという物ではなく、「誰に対して訴えかけるか」をしっかり考慮することが重要となります。大きな複合商業施設や繁華街などでは、遠くから歩いてくる人たちを店舗まで誘導する為に遠くからでも視認できるサイズの方が効果的でしょう。
反対に店舗が密集している飲み屋街などでは、店舗の前を通り過ぎる人たちに向けて入店決定を促すようなサインが必要となるでしょう。その場合、近くで見る事になる為、大きなサインでは見にくくなってしまいます。また、大きなサインでは「賑やかさ」や「力強い」印象を与えます。反対に小さいサインだと「高級感」や「上品さ」を演出することができます。同じ形や色のサインでもサイズが変わるだけで大きく印象が変わってきます。
フォント
店舗のロゴはもちろんですが、商品説明やメニューなど文字を使うサインは数多くあります。色やサイズ以外にも「フォント」がお客様に与える印象も大きいと言えるでしょう。書類などに使用されているフォントは読みやすさを重視したものですが、商品説明やメニューなどは可読性 も考慮しながらも個性を出すようなひと工夫されたフォントを使うとより良い印象となるでしょう。
太めのフォントは文字数が少ないサインで使用すると読みやすく、 印象に残りやすくなりますが、文字数 の多いサインで使用するとゴチャゴチャした印象になってしまい読みづらくなってしまう為、注意が必要です。シンプルなフォントは高級ブランドなどで多く使用され、洗練された印象や上品な雰囲気を与えます 。店舗のコンセプトやメッセージに合わせたフォント選びが大切です。
ピクトグラム
ピクトグラムは東京オリンピックで使用され話題になり、 ご存知の方も多いのではないでしょうか。ピクトグラムの定義は「情報や注意を示すために表示される案内記号のことです。文字の代わりに視覚的な図記号で表現することで、言葉の違いや年齢等による制約を受けずに情報の伝達を行うことができます」(引用1)。日本国内での標準規格である「JIS規格」や国際的な標準規格である「ISO規格」などで定められている絵図もあり「誰にでも伝わるサイン」として活用されています。
一目で何のサインなのかが分かる為、公共スペースやショッピングモールの共有エリアなどで多く使われています。近年ではデザインや形状にこだわっている物も多く、高級ホテルなど洗練された場 でも使用されています。
グラフィック
ブランドイメージや商品などを写真や絵で、最も簡単に伝える事ができるのが「グラフィック」です。ポスターやPOPなどとして掲示する事が多く、手軽にコストを抑えて伝えることが できるのも大きな特徴です。近年ではデジタルサイネージやモニターを使い動画を流す店舗も増えてきており、データを入れ替えるだけで新しいサインに切り替える事が出来る為、季節毎や新商品が発売される度にサインを変える場合などに有効でしょう。
サインデザインで気を付けるべきポイント
サインを掲示する際には法令や決まり事が多く、特に屋外にサインを設置する際は注意が必要です。「建築基準法」や「道路法」、各自治体で制定されている「屋外広告物条例」や「景観条例」など多くの法令が関わっています。サインの大きさや掲示場所、色に至るまで制限がある為、屋外にサインを掲示する場合は事前に各自治体の関連部署に確認が必要です。
また、その他の屋外の注意点としては「耐候性」や「安全性」も検討する事が大切です。屋外のサインは簡単に室内に仕舞う事ができない為、常に雨風にさらされた状態となります。その為、室内のサインよりも雨や気温の変化に適応した素材を使う必要があります。そして強風や地震などに備えて取付方法や壊れにくい素材を使うというような工夫も大切です。
室内のサインでも、複合商業施設内に出店する場合には、その施設全体で決められているデザインコンセプトがあり、各店舗のデザインに規制が掛かる事があります。多くの場合、設置位置やサイズ制限が掛かる事が多い為、複合商業施設に出店する場合は事前に確認が必要です。
まとめ
「サイン」は店舗デザインにおいてとても重要な要素であり、それらを効果的に計画・デザインをする事で売上アップに繋がるだけでなく、店舗や商品のコンセプトや想いを的確にお客様に伝える事が可能となります。お客様を上手く誘導する為にもサインは大切な物であり、心理的なアプローチとしても効果があります。サインデザインには様々な表現方法があり、色やフォントなどによってお客様に与えるメッセージが変わってくる為、伝えたい内容に合わせたデザインにする事が大切です。
今回のコラムテーマ
~グラフィックやビジュアルで魅せる店舗からのメッセージ~
読むデザイン
店舗デザインには様々な仕掛けや工夫が散りばめられています。内装・家具・インテリア・建築など総合的に考えながら、目に見えるものはもちろん、空気感、匂い、温度などの目に見えない「シーンを語る」ような雰囲気づくりが大切です。STORE PALETTEでは店舗デザインをはじめとした様々な空間デザインについて独自の目線で執筆しています。