コラム

COLUMN

壁面を彩る「ウォールアート(壁面アート)」

~壁面を効果的に演出する手法~

はじめに

近年のSNSの流行により、訪れた店舗で写真を撮る機会が多くなってきており、店舗デザインを計画する中で「フォトスポット」を重視する店舗が増えてきています。その中でも「壁」の前で写真を撮る機会は多いのではないでしょうか。壁は人間と同じ目線にあり、一緒に写真を撮りやすい部分でもあります。壁紙やタイルを貼るだけでなく、こだわりを持った演出やデザイン・装飾をする事を「ウォールアート」と呼びます。その手法は数多くあり、店舗デザインを計画する上でも様々な効果が期待できます。ウォールアートはどのような物で、どのような手法があるのかをご紹介していきます。

「ウォールアート」の定義とは

「ウォールアート」と聞くと「壁画」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。近年「ウォールアート=壁に絵やグラフィックを描く」という認識が高くなっていますが、本来は壁画だけを指す言葉ではなく、タイルを使ったデザインや立体造形による装飾なども含めた幅広い手法の総称です。これらウォールアートを店舗デザインに取り入れる事で多くのメリットが期待できます。

店舗デザインで使える「ウォールアート」

ウォールアートには数 多くの手法がありますが、それぞれのアートに店舗からの「メッセージ」を込める事により「集客力アップ」や「宣伝効果」、「ブランドイメージ向上」などの効果が期待できます。ウォールアートにはどのような手法があるのか見ていきましょう。

壁画・グラフィックシート

「ウォールアート」の中でも一番イメージしやすい物が、壁に絵を描く「壁画」や「ウォールペイント」ではないでしょうか。ペンキや絵の具だけではなく、チョークを使って描かれた「チョークアート」もカフェなどで人気があります。「絵」を描くだけでなく、ロゴやメニューなどをウォールペイントなどで表現する事も効果的です。
店内の壁面だけでなく、ファサード壁面に印象的な絵を描くことで「SNS映え」や話題作りとなり、宣伝効果も期待できます。壁画やウォールペイントは技術や経験が必要になる為、グラフィックを専門としているアーティストやデザイナーなどに依頼する事が良いでしょう。年数が経っても新たに上塗りする事で簡単に補修が出来る為、メンテナンスは比較的簡単に行えます。新しい絵に変えたい時でも、上からペンキで塗りつぶすか、下地となっているボードを取り替える事で変更が可能です。

その他に、あらかじめデータで作成したグラフィックを大きなシートや壁紙に印刷をして貼る方法もあります。大手の壁紙メーカーなどもこのようなサービスを提供している為、比較的取り入れやすい手法です。シートや壁紙が破れてしまうと部分的な補修が出来ず、全てを張り替えないといけない為、メンテナンスのコストは高くなってしまう可能性があります。

タイルアート・左官アート

「タイルアート」の歴史は長く、紀元前のメソポタミア文明の頃から存在しており、色や形の違う小さなタイルを組み合わせて一つの柄や絵を作り上げる装飾技法の事を指します。陶磁器製のタイルを使って作られるタイルアートは劣化に強く、歴史的な建造物の内部や外部などでも広く採用されてきました。一つ一つのタイルを手作業で貼っていきデザインを完成させる為、綿密な計算と熟練された職人技 が必要となりますが、グラフィックなどとは一味違った重厚感や存在感があります。現代では、タイルメーカーなどがオンライン上でシミュレーションできるサービスを提供している為、より身近にタイルアートを感じられるようになったと言えるでしょう。それでも実際に施工する際には職人の手作業となる為、時間とコストは比較的掛かってしまいます。

タイルと同じく歴史の深い「左官」を使ったアートも近年世界で注目を集めています。特に日本の左官技術は高く、2020年には国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に『伝統建築工匠の技』の一つとして登録されました。土や漆喰(しっくい)で作り上げる左官壁アートは全てが手作業で、固まるまでの短い間にフリーハンドで絵や柄を描き上げる必要がある為、熟練した技術が必要です。その為、依頼する職人によって仕上がりに差が出てしまう事を理解しておく必要があるでしょう。

デザイン塗装

「塗装」は壁面を仕上げる最もポピュラーな方法の一つです。通常は塗装用のローラーや刷毛(はけ)を使い、壁一面が均一な仕上がりとなるように塗っていきますが、スポンジや櫛(くし)、時には段ボールの切れ端などを使ってムラが出るように塗る事で通常の塗装とは一味違った特徴的な仕上がりになります。難しい技術も不要な為、DIYなどでも挑戦しやすい手法です。

身近な物を装飾品として活用する

身近な物を壁に飾る事で、空間の印象を大きく変える事も可能です。飲食店であれば、提供している料理などに関連した道具を飾るだけでもメッセージ性のある装飾品となります。ホームセンターやオンラインショップなどで取付金具や接着剤を購入できるので簡単に取り付ける事が出来ます。

その他には「植物」も効果的なウォールアートの一つです。本物の植物を装飾品として使うにはメンテナンスや頻繁な交換が必要な為、それなりの費用と知識が必要です。メンテナンスフリーで植物を取り入れたい時には「フェイクグリーン」が活躍します。遠目には偽物と分からないような精度の物もありますので、フェイクグリーンで代用するのも一つの方法です。また、壁面全体を装飾するのではなく、茶室にあるような「一輪挿し」も立派なアートです。「賑やかにする=アート」ではなく、空間のコンセプトに合わせた装飾品を選定する事が一番大切です。

「ミラー」を効果的に取り入れる

アパレルなどの物販店では必要不可欠な「ミラー」ですが、飲食店などで「空間演出」の一部として取り入れる事も効果的です。壁面などに貼って空間に奥行きを持たせる事で、圧迫感が軽減され、空間自体も広く感じられるようになります。四角のまま貼るのではなく、形状に一工夫を加えたり縁取りをする事で装飾品としての効果も上がります。
店舗などで取り入れる際は「飛散防止フィルム」を貼るなどして破損した時の対策を取っておく事も大切です。

光を使った演出

壁面に飾る装飾品やグラフィックを照明器具により照らす事で、ウォールアートをより一層引き立たせる事ができ、メリハリのある空間にする事ができます。暗い店内で一部だけ明るい所を作る事で「アイキャッチ」となり視線を意図的に誘導する事もできます。

アートを照らすだけでなく、プロジェクターなどを使い壁面にアートを「映し出す」のも光を使った効果的な演出です。アートを変えたい時にはデータを差し替えるだけで完了し、工事が不要な為、簡単に店舗の雰囲気を変える事が可能です。静止画だけでなく動画も映し出せる為、演出の幅も広がるでしょう。

まとめ

これまで「ウォールアート」の意味や手法・技法をご紹介してきました。その種類は多く、それぞれが与える印象も様々です。ただ単にアートを取り入れるだけでは煩雑な空間となり逆効果となってしまう為、どのようなアートをどうやって取り入れるかをしっかりと考える 事が店舗デザインには大切になります。目指している店舗デザインの「コンセプト」や「メッセージ」を明確にする事により、その店舗に合った「ウォールアート」を見つける事が出来るでしょう。

今回のコラムテーマ

~壁面を効果的に演出する手法~

読むデザイン

店舗デザインには様々な仕掛けや工夫が散りばめられています。内装・家具・インテリア・建築など総合的に考えながら、目に見えるものはもちろん、空気感、匂い、温度などの目に見えない「シーンを語る」ような雰囲気づくりが大切です。STORE PALETTEでは店舗デザインをはじめとした様々な空間デザインについて独自の目線で執筆しています。