コラム

COLUMN

店舗デザインにおける効果的な商品の陳列手法

~視覚や心理へのアプローチ~

はじめに

物販店では「商品を多く売る」ことが売上アップには欠かせませんが、品数を多くして陳列する商品を充実させるだけでは大きな効果は期待できません。商品のクオリティーを上げたりブランドイメージを向上させる事により売上アップも狙えますが、商品をどのように「見せる」のかも重要な要素となります。

人気店の多くは店舗のディスプレイを決める際に心理学やVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)などを基に売場レイアウトや商品陳列を考えており、いかに来店客の購買意欲に訴えかける売場にするかを大切にしています。効果的な商品陳列を実現する為にはどのような手法を用いればよいのか、またどういった事に気を付けなければならないのかをご紹介していきます。

「商品陳列」は売上アップになぜ大切なのか

商品陳列を考える上で「VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)」という言葉が重要になります。VMDは「視覚的な販売戦略」という意味で、特にアパレル業界で活用されている商品陳列に関する手法の一つです。お客様が商品を購入するまでに「認知→興味→検討→購入」というような流れを取る事が多く、VMDではこの中の「認知、興味」に働きかけます。
どんなに良い商品でも知ってもらわなければ購入される機会は減ってしまう為、まずは認知される事が最も重要になります。いかにお客様に認知してもらい、どうすればその商品に興味を持ってもらえるかを考える事が売上アップへの近道となるでしょう。

「VMD」で大切なこと

VMDは「認知・興味」に働きかける事で商品購入のきっかけを作る手法です。効果的なVMDを計画する為には大きく分けて3つの大切な要素があります。

VP(ビジュアルプレゼンテーション)

ブランドのコンセプトやイメージを表現する事を指します。ショーウインドウやファサード周りにマネキンやビジュアルポスターなどを置く事で「視覚的」にブランドの雰囲気を伝えていきます。店舗の前を通る人達にアピールする事ができ、入るつもりの無かったお客様にも興味を持ってもらう事にも繋がります。
その為、常に同じVPにするのではなく、季節やセール毎に内容を変える事が大切です。店舗の第一印象を左右するVPを計画的に構成する事が新たなファン作りにも繋がるでしょう。

PP(ポイントプレゼンテーション)

様々な商品が置かれている店内で「新商品や主力商品」をいかに効果的にアピールするか計画する事をPPと言います。VPを見て店内に入ったお客様へ、このブランドがどのような世界観を持っているのかを更に知ってもらう事を目的としています。商品を入口付近や店舗の中央に配置したり、目線の高さにある棚に置いたり、マネキンに着せるなどしてアピールしていきます。
新商品や主力商品の種類の多さによってPPの見せ方を変える必要がある為、商品を陳列する什器はレイアウトが変更しやすいようキャスターを付けておくなど、仕様に気を配る事も大切となります。

IP(アイテムプレゼンテーション)

各アイテム(商品)をサイズやカラー、価格などで分類し陳列する事でお客様が欲しいと思っている商品を見つけやすくする事をIPと呼びます。そして、近くに類似商品などを置く事で気になっている商品と比較をしやすくなり、購買する決断の手助けになります。店舗の売場の中で一番広い面積を占めるのがIPで構成されたエリアとなる事が多くみられます。

商品の効果的な見せ方

ここからは、実際にどのように商品を並べると効果的な陳列になるか、アパレルを例にとって説明していきます。

商品の見せ方1:フェイスアウト

お客様が商品の前に立った時に、商品が正面を向いているように陳列する事を「フェイスアウト」と言い、その商品の特徴や雰囲気を一番伝えられる陳列方法です。人気商品やオススメ商品などをアピールする際に用いられる事が多く、他の商品とのコーディネートも見せられる為、より商品のイメージが伝わりやすくなります。アパレルなどでは多くの商品をフェイスアウトで陳列すると幅を取ってしまい陳列できる数が減ってしまうので注意が必要です。

商品の見せ方2:ショルダーアウト/スリーブアウト

商品の側面(袖の部分)が見えるように陳列する方法を「ショルダーアウト/スリーブアウト」と言います。ジャケットなどをハンガーに吊るした状態で陳列する事で、サイズの比較をしやすくなるメリットがある一方で、一つのラックの商品を詰めすぎてしまうと取りにくくなってしまったり、皺ができてしまう事もあるので注意が必要です。

商品の見せ方3:フォールデッド

平積みの什器や棚などに商品を畳んだ状態で陳列する事を「フォールデッド」と呼びます。シャツやTシャツなどの商品の陳列に多く使われており、きちんと整頓して規則正しく陳列する事で、カラー展開の多い商品などを効果的にアピールする事が出来ます。複数段ある什器では、サイズごとに棚を分ける事で目的の商品を選びやすくなるというメリットもあります。

陳列方法を考える手順

これまで商品陳列の手法についてご紹介してきました。実際に陳列方法を決めていく時にはどのような手順で計画を進めれば良いのでしょうか。

Step 1:「テーマ・コンセプト」を決める

まず始めに、その売場のテーマやコンセプトを決める事が重要となります。この売場に置く商品は誰に向けた物なのか、どのようなシーンで使われる事を想定しているのかを明確にする事により、そこに陳列されている商品のイメージがお客様へ伝わりやすくなります。
しかし、おすすめの商品や新作をただ並べるだけでは煩雑な印象を与えてしまい、印象が悪くなってしまう恐れがあるので気を付ける必要があります。その商品のイメージを視覚化した「ポップ」などを一緒に置く事で、テーマやコンセプトがより伝わりやすくなります。

Step 2:商品に合わせた「売場スペース」を決める

同じブランド内でも商品の価格帯に差がある事があります。高価格帯の商品を店舗入り口付近などに置いてしまうと「ここは高いお店」という印象を与えてしまう事になり、来店の機会を失ってしまう事に繋がります。反対に価格帯の安い商品をゆとりのある店舗中央などに陳列してしまうと限られた売場スペースを無駄にしてしまう事にもなるので、その商品に合った「売場」を考える事が大切となります。

Step 3:「商品の見せ方」を考える

そして最後に、空間全体のバランスも考慮しながらどのような什器を使うのかを決め、その売場の中でどのように商品を陳列するかを決めていきます。これまでにご紹介した「商品の効果的な見せ方」のどの手法が最も適しているかを見極めることで、より効果的なアピールができるようになります。

売上アップに繋がる陳列テクニック

フェイスアウトやショルダーアウトなどの見せ方に一工夫を加える事でより一層効果的な商品陳列となっていきます。それにはいくつかの方法があり、すぐにでも取り入れられるテクニックをご紹介します。

「ゴールデンゾーン」を意識する

ゴールデンゾーンとは、お客様にとって「見やすく・触りやすく・選びやすい場所」の事を指す言葉で、一般的に「床から850mm~1500mmの高さ」程度とされています。このゾーンに主力商品やおすすめ商品などを並べる事で効果的にアピールをしていく事が可能です。しかし、このゴールデンゾーンはお客様の身長によって変わってくる為、その棚のターゲット層を明確にする事が大切になります。

陳列する位置を意識する

商品を並べた際、中央~右寄りに置いてある商品が手に取られる機会が多いと言われています。棚の前に立った時にまず目に入るのは中央部分となり、棚中央の商品が目に入ります。そして右利きの多い日本人にとって、自分よりも右側にある物を取りやすい傾向があります。これらの理由により棚の中央~右寄りに置いた商品は視認率や手に取ってもらえる確立が高くなるといえます。

まとめ

店舗に商品を陳列する手法はたくさんあり、お客様が店内に入る為のきっかけ作りや、商品を手に取りやすくするなど目的に合わせた陳列方法を選択する事が大切です。そこに心理的なアプローチを取り入れる事でより効果的な商品陳列となっていきます。どのような商品陳列にするかは店舗のレイアウトやデザインなどにも影響する要素となる為、事前にしっかりと計画をする事が大切です。

今回のコラムテーマ

~視覚や心理へのアプローチ~

読むデザイン

店舗デザインには様々な仕掛けや工夫が散りばめられています。内装・家具・インテリア・建築など総合的に考えながら、目に見えるものはもちろん、空気感、匂い、温度などの目に見えない「シーンを語る」ような雰囲気づくりが大切です。STORE PALETTEでは店舗デザインをはじめとした様々な空間デザインについて独自の目線で執筆しています。